名古屋高等裁判所金沢支部 昭和25年(う)210号 判決
或る人が暴行又は脅迫を手段として、他人の財物を奪取し、該財物を自己の支配内に移すに至つた場合、其の者が該物件を、自由に処分し得るような安全な場所に持去るまでもなく、財物を自己の支配に移しただけで、強取行為は直ちに完了し、此処に強盗既遂罪の成立を見るに至ることは、刑法第二百三十六条の解釈上、疑を容れないところである。原審認定の事実に依れば、被告人は、原審相被告人高間教志及び同山根辰雄と共謀の上、昭和二十三年九月中旬の午前二時頃、福井県坂井郡大石村井の向の岡部政方に於て、岡部政を脅迫して其の反抗を抑圧した上、金品の提供を促し、原審相被告人高間教志が同女の差出した現金壱万円在中の新聞紙包みを受取つたのち、さらに箪笥の中を探して、現金約参万円在中の風呂敷包みを取出し、かようにして、被告人並びに原審相被告人高間、山根の三名は合計約四万円の現金を取得して同所を立去ろうとしたが、岡部政の唱える念仏の声に、右高間教志の良心がにわかによみがえり、悔悟の余り、共犯者である被告人等に告げないで、ひそかに右金員の全部をそのまゝ前記岡部方に差置いて他の二名と共に同所を立去つたと言うのである。果して事実が其の通りであるとすれば、被告人等の所為は、脅迫を手段として岡部政の反抗を抑圧し、同人より其の所有に係る現金四万円を奪い取り、一応これを被告人等の完全な実力支配の下に収め了つたものとして、刑法第二百三十六条に定める強盗既遂の罪に該当するものであることが明白である。然るに原判決を検すると、其の法律理由中に、被告人の判示所為は刑法第二百三十六条第一項第二百四十三条第六十条に該当するとし、同法第四十三条本文を適用して法律上の減軽をしていることを認め得るのであつて、そうして見れば、原判決は強盗既遂をもつて論ずべき事実を認定しながら、これに対し強盗未遂の罪の法令を適用している点に於て、法律の適用を誤つたものであり、右の法令違反は判決に影響することが明かであるから、論旨は理由があり、原判決は此の点に於て破棄を免れない。